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長い梅雨も明けて、8月になりました。

忘れられない花火の話をします。



もう30年も前の夏のことです。


その年の秋に結婚式を控えた俺は

歳を取り過ぎて式に来られない山形の親戚の家々に

妻を連れて挨拶に出掛けました。


夜明け前に蔵王に登り朝日を浴びて

幻想的な火山湖の御釜を拝み

修行のような山寺の階段を登りきり

最上川を下って 親戚の農家をまわりました。


世田谷育ちの妻は意外にも そんな田舎の空気と食べ物が気に入って

帰り際、どうしても地元の温泉で1泊したいと強請ってきました。

急だったので 有名どころはどこも満室で

親戚があちこち掛け合って取ってくれた旅館はかなり山奥の温泉でした。


夕方近く、心細い橋を渡ると 古い小学校のような佇まいの旅館が見えてきました。

目の前の河原では 何やらお祭りの用意なのか

かなり大勢の人が忙しく行き来していました。



『団体さんのキャンセルが入って 大部屋が開いていますので』


通された部屋は2階で 宴会場のような大広間でした。


『暗くなったら花火大会が始まりますので お先にお風呂の方へ』


染物を漬けるような形のお風呂は見た目よりも快適でした。

風呂から上がり 大部屋に戻り 強度が心配な木製の窓枠に腰掛けると

けたたましいスピーカーのハウリングの音が。


『わあ、始まるんだ!』


同じ窓枠に向かい合わせのように座った妻が目を輝かせてつぶやきました。



ドン!ドン!ドン!



主催者らしき挨拶が終わると 景気づけのように花火が上がりました。

向こう岸から打ち上げられた花火は 夜空にくっきりと色鮮やかな花を咲かせます。


あんなに近くから花火を見たことがなかったし

同じ窓枠にふたりで坐っているので

その重さで落っこちないかという不安と言うか吊り橋効果と言うか

いろいろドキドキでした。


『なんかおもしろいね』

『なにが?』

『打ち上げる前に いちいち能書きのアナウンスがあるでしょ』

『そうだね。きっと、ひとつひとつスポンサーが付いてるんだよ』


それは 亡くなった先祖への供養だったり 村に来た嫁さんを歓迎するメッセージだったり

商店の宣伝だったり。


『山形って楽しいね。』


妻の頬に 花火の照り返しが映った。

それはいつもとは違う 幼い横顔だった。

この無邪気さを守って行けるのか

俺は改めて 結婚する重さを知ったのだ。



『今度来るときは 私の花火のスポンサーになってよ。』

『う…………』

俺は咄嗟に漂って来た花火の煙と火薬の匂いにむせたふりをした。




それから3年後には長男が生まれ

それから2年後には次男が生まれ

アパートを2回移り住んだが

それから8年後には 今の家を建てた。


順調すぎるほど順調だった。

が、俺は 40歳前に2度大きな手術をするはめになった。

仕事的にも金銭的にも それから辛い期間が続いた。

何とか乗り越えてきたのは妻の頑張りのお蔭だと素直に思う。



5年前のことだ。


『鎖骨の下にできものが出来たみたいで…』

妻がしきりにそのしこりを気にするようになっていた。


歳を取ればいろんなところに油がたまったりするんだよと

俺は適当に応えてた。

『鎖骨の下だし 乳がんなんてことは絶対ないよ』と。


乳がんだった。


入院は3日。

摘出手術は順調に終わったが

医者からは


『細胞を調べてみたら 大まかに3段階あるとして 1番やっかいな細胞です』

と告げられた。



すぐに 仕事に復帰もできましたが

むしろそのあとの予防治療が大変でした。


放射線、抗がん剤、そして最新薬


それぞれ何セットか行い

当然髪の毛も抜けました。


男が思っている以上に女性の髪の毛は大事なもので

妻はずっと 電気を消して風呂に入っていました。

行きつけの美容室から貰ったかつらは いかにもという感じなので

帽子の方がいいと思っていましたが

やっぱり髪の毛にこだわっていたようです。





その夏 俺たちは 久しぶりにあの花火を観に行くことにした。

もちろん 小遣いをはたいて花火のスポンサーにもなった。


あのとき泊まった古い旅館は もっと古い旅館になっていた。

流石に内装は新しくなっていたが(笑)。


アルミサッシになった窓枠にあのときと同じように向かい合って座った。


怒涛のように打ち上がる花火。


ハートマーク 花模様 ピースマーク パームツリー


『役物の花火ってさ、狙って正面に上げるのが難しいらしいよ。』

聴こえていないのか返事はなかった。



そしていよいよ俺の花火の番になった。




『昔、偶然ここの花火を妻と観に来て いつかはもう一度ふたりで来ようと約束していました。』 


ハウリ気味の若い女性のアナウンスを聴いて 妻が気づいたようです。



『忘れてなかったんだね!』

『もちろん!』



若い女性アナウンスは続けます。

『約束してましたが 妻はこの春に懸命な治療も叶わず他界しました。』 



観客が静寂する。



それまで子供のようにはしゃいでいた妻の笑顔が凍った。


『わたし…』

『うん…』


俺は、そう応えるだけで精一杯だった。


『ごめん… ありがと…』



ドン!ドン!ドン!



そのあとの言葉は花火の音にかき消された。


続けざまに 色鮮やかな花火が打ち上がる


窓枠にもう妻はいなかった。



花火の煙が河を越え風に舞ってこちらに流れてくる。


それは確かに 気高く甘い妻の香りだった。








(筆が滑りましたが、実際の妻はもちろん健在です。)

2016/08/01 18:09 雑感 TB(0) CM(0)
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